大手機械メーカー「クボタ」(大阪市)従業員のアスベスト(石綿)による労災をきっかけに浮上した健康被害は周辺住民にも広がり、深刻な「公害問題」になりつつある。欧州より規制が遅れたことが今になって重大な結果を招いており、教育現場の不安も大きい。厚生労働省などは14日、対策を打ち出したが、万全とは言えない。【大島秀利、宍戸護、江口一】
◇不安も拡散、白い粉 「住民、まるで鉱山の中」 クボタは先月30日、中皮腫になった旧神崎工場(兵庫県尼崎市)の周辺住民5人(2人死亡)のうち治療中の3人に見舞金を支払った。
その一人で同県伊丹市の主婦、土井雅子さん(57)は20歳まで神崎工場の1キロ以内で暮らしていた。昨年5月、かぜをひいて胸部エックス線検査をすると、医師から「肺に影がある。石綿を扱う仕事をしていたか」と尋ねられたが、心当たりがない。中皮腫と診断され、左肺と横隔膜の全摘出手術を受けた。他にも中皮腫になった住民がいることを知り、「これは国が石綿の規制をしっかりしてこなかった公害問題だ」と憤る。
石綿は教育現場にも影を落としている。
「子供たちを危険から守るために公共施設での石綿の使用実態を明らかにしてほしい」。東京都文京区の区立保育園で99年に石綿を吸い込んだ子供の保護者ら7人が13日環境省を訪れ、要望書を出した。母親の一人は「娘は12歳になったが、今でも(ほこりが舞う)工事現場を遠回りして避ける生活をしなければならない。なのに社会の関心はまだ低い」と訴える。
この保育園では99年7月、部屋を広げる工事を区から発注された業者が天井をはがすと、白い粉が大量に飛び散った。出迎えに来た親の一人が「石綿ではないか」と指摘したが、区はしばらく工事を続けた。このため、0〜5歳児の108人が最大で99時間、発がん率が高いとされる青石綿(クロシドライト)や白石綿(クリソタイル)の粉を吸った。
園児3人とその保護者は「ずさんな工事で健康不安にさいなまれた」と1200万円の損害賠償を区に求めて提訴し、昨年4月に和解した。
子供たちは将来、区の負担で健康診断を受け、数十年後に中皮腫や肺がん、石綿胸膜炎が確認された場合、区が治療費も負担するという内容だ。
石綿の輸入は74年の約35万トンが最高で、90年代からは減少傾向にある。しかし、石綿を使った建造物の解体は2020〜40年にピークを迎えるとみられる。
厚生労働省は今月1日、石綿障害予防規則を制定し、建造物解体時の事前調査や粉じんの飛散防止策を業者に義務付けた。だが、同省のある幹部は「大規模なビルなら周囲の目もあり、規則も守られるだろうが、民家などの場合にどこまで徹底できるか分からない」と打ち明ける。専門家の間でも「石綿の除去の方法などを細かく指定していない点が不十分」という声が少なくない。
環境省も都道府県に対し、保健所で住民の健康相談を受け付けるよう要請したが、「公害」との表現は慎重に避けている。環境基本法や公害健康被害補償法は「事業活動などに伴って生ずる相当範囲にわたる著しい大気の汚染(中略)で人の健康に被害が生じること」を「公害」としているため、「法の趣旨に照らしてみると、現時点ではちょっと違うのではないか」(同省環境保健部)という認識だ。
(毎日新聞) - 7月15日
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